佐々木病院の評価
枡野 俊明
■総評
 佐々木病院のこの一年の活動は、昨年に引き続き「地域密着型の病院」づくりをより一層明確進めている事が、周囲からも見てとることができる。これは地域社会における当病院の位置付けが、理事長を初め病院全体の職員にまで浸透している事の表れといえる評価ができよう。また、病院内の動向を見ても日々改善進化している事が解る。

 一方で、病院全体での情報の共有化、作業の効率化、更には内容の高度化に向けて院内全体で取り組んでいる様子がわかる。特に、今後、益々高度化、細分化されていくであろう医療について、常に向学心を持ちつづける事は現代の病院にとり大変重要な課題であり、また、不可欠な事柄でもある。この部分も評価に値する。

 しかし、ともするとこのような建設的な活動は、高度化への変革と内容の充実を追い求めるが故に、地域医療本来の役割から離れがちになる危険性が潜んでいることを忘れてはならない。大規模化された総合病院は、効率的で高度な医療技術をもって患者の治療に当たるが、一方でその対応は人間性に欠け、機械的である。「地域密着型の病院」づくりを目指す佐々木病院にとっては、この点を常に頭に入れ行動をして行く必要性がある。地域密着型医療は、常に顔と顔が繋がる、心と心が繋がる医療、常に患者や家族の立場に立った医療が行わなければならない。そして、全ての点に於いて温かみや優しさ、そして人間性が感じられる病院でなければならない。この意識が職員全員に行き渡り行動に表れる時、佐々木病院の本来の明日が見えてくるのではないであろうか。今後の取り組みが期待される。

合掌
◆平成14年度実績報告書に対する感想
車田 浩之
  1. はじめに

      これまでの日本医療は学術的・技術的な側面は目覚しい発展を遂げてまいりました。しかし、その反面、患者の生活環境を考慮せずに単純に検査結果のみで患者の状態を判断し治療してきたことは否めません。また、感染症等の急性疾患から慢性疾患へと疾病構造が移行してきております。慢性疾患は個人のライフ・スタイルと密接な関係があり、そのケアのためには患者の体質はもちろんのこと家庭事情等も考慮に入れた全人的な対応が今後求められてくると考えられます。このようなことから、生活と近い場所での医療が求められており、現在の「地域医療へ」という流れに決定的なものとしております。
     このような動向を踏まえ、近年の医療法改正や診療報酬の改定を鑑みると、医療施設を「高度医療を行う病院」「長期入院のための病院」「プライマリ・ケアを行う病院」等の機能分化を進めることで、良質な医療を効率的に供給しようとしている過程であると認識することができます。特に、これまで地域での一翼を担ってきた病院は総花的に全てを網羅するのではなく、自院の方向性を見据えたビジョンを明確に示すことが重要となってきます。
     このような視点から、貴院が事業目標に掲げている「地域医療の実施」は今後を生き抜く上で重要なコンセプトであるといえます。鶴見を地盤とした訪問看護ステーション及び老建施設への事業展開、理学療法・作業療法部門の機能充実(患者のマッサージ感覚からの脱却)等は地域住民のニーズに対応していくための礎となっていくことでしょう。また、グリーンアップ作戦等により地域住民と交流しようとする視点は「地域に開かれた病院」という意味からも今後とも推進していくべき課題であると考えられます。

  2. 病院経営に関する見解
    今回各セクションによる実績報告に対して、以下の3つの切り口からコメントさせていただきました。

    (1) コスト削減に関するコメント
     病院運営を進めていく上で重要なことは「人間性の問題」と「経済性の問題」を混同してはいけないということにあります。「人間性の問題」とはクライアントへのCareとCureの十分な提供であり、「経済性の問題」とは、組織を効率的に運営していくためのマネジメントを指します。特に、職員の中にはコスト削減を実施することと医療の質の低下との関係を強い相関があるものと誤解してしまい、本来の目的がうまく遂行できないという例がよくあります。
     貴院の場合は事務部門(総務課等)を含め、診療部門等に関しましても、コスト削減に関する提言がなされ、実際に実現に向けて取り組まれている様子が窺えます。ただし「ゴミ減量の徹底」や「消耗品の経費見直し」といった抽象的な表現が多かったため、最終的な結果がぼやけてしまったものと考えられます。いずれにしても、コスト削減として300万円の削減に成功したことは大きな成果であります。今後は具体的な数値目標を盛り込むことにより、より一層のコスト削減が実現できることを期待します。

    (2) 人事に関するコメント
     病院は医師を含めた国家資格者群で構成されるいわゆる労働集約型の企業であります。職員各人が高度な専門能力を有しており、クライアントに対しては、適切かつ迅速な対応が求められております。しかし、このような組織形態は専門職群間の情報疎通が停滞し、閉塞的な職場となる危険性を内包しております。また資格保有者を中心とする集団では、人事管理者による資格保有者間での短絡的な平等意識から、概して個人の評価が疎かになりがちです。このような問題点を解消し、病院経営を進めていくためには、国家資格保有者群及び部署間での人的交流を促進する努力をし、医師をはじめとした職員各人の能力に関する適切な評価を実施していくことが必要であります。
     貴院の場合、韓国への職員旅行、グリーン共済への加入等福利厚生面ではさまざまな工夫がなされていると思います。このような機会を通じて職員間での交流を推進していくことは、今後の人事運営上プラスになると考えられます。また人事管理につきましては、人件費コストの増加等と相まって、当初計画より支出が増加してしまった旨のご指摘がありました。この点につきましては定期昇給の考え方に対して、できるところから改善していくことも1つの方法ではないかと思います。
     多くの病院では国公立病院の賃金体系に準拠して実施されており、昇給の考えが定着している状況にあるといえます。このことから多くの病院では総収入に対する人件費が50%をこえており、一般企業でいえば労務倒産の状態に近いといえます。将来的に病院も民間企業に近い経営体系になることが予想されることから、人事制度、給与体系について段落的に見直しを進めていくことも必要であるといえます。

    (3) 地域社会との接点に関する事業
     地域医療、地域福祉の観点から、医療・保健・福祉の連携が叫ばれてはじめ久しいと思います。これまでの、「点と点」のクライアントとの繋がりではなく、それぞれが連携し、
    「面」としてクライアントをサポートしていく姿勢が重要であります。そのためには医療法人として、地域に根ざした事業展開を選択していくことが必要となっています。
     貴院では(理事長のご指摘では消化不良に終わってしまったとのことではありますが)地域との交流を目的としたグリーンアップ作戦を実施されたとのことでした。このような活動は、地域と接点を持っていく上でひとつの契機となると考えられます。地域の社協やNPO組織との連携を含めて、今後発展していくことを期待いたします。また、地域医療に関してMSW的な発想ができる人材を発掘、育成していくことも必要であると考えられます。

  3. 全体を通して
     病院機能評価結果のなかにもあったように、人事制度と給与体系を適正に運用していくためには、ある程度人事考課のための基準づくりを進めていくことが重要であると考えられます。そのためには専門職群と法人管理職との役割を明確に定義づける作業が必要になってくると考えられます。
     一般に「PDS」といわれるマネジメント・サイクルとは、<計画(Plan)→実行(Do)→評価(See)>を示しており、これらの一連のサイクルを繰返し実行していくことで、スパイラル型発展を実現しようというものであります。貴院における各部門における事業報告は、年間を通じて自己評価を行い、次年度にその結果を反映させることを目的としたものに他なりません。
     今回の貴院事業報告内容が、貴院の次年度および今後の更なるご発展へと寄与されることを心よりお祈り申し上げます。
    以上